第1章 プロローグ
「どうせいつか終わる世界だとしても、あんな時計に終わらせられる筋合いはない。ユーズ、準備はいいか」
「任せろ、ぶち壊してやる」
頭上に在るのは大きな時計。その大きさ故に輪郭は曖昧で、針はただ1つ。円盤の表面には、10個の記号が等間隔に刻まれている。針はそのうちの1つから静かに動き出し、左回りに進んでいった。
それでも世界は、いつも通りに息をしている。
だが針だけは、決まった速度で進み続けていた。
――針はEを指した
***
時は針4つ分遡る――
「なんだこれ...」
ユーズは思わず声を漏らした。体格の割に声は小さく、驚きと戸惑いが混ざっている。
長らく人が立ち入った形跡がなく、それでいて終末を感じさせない様相の空間は、天井近くまで届く1つの巨大な箱の異様さを引き立てる。
「旧時代の装置だ」
僕は知っていた。旧繁栄時代の遺物。ただの箱に見えて、その力は計り知れない。
「旧時代の装置...?」
「大戦の名残だ。直接的な兵器じゃない」
世界を終末へと導いた大戦。分化戦争の勢力図は、装置の台頭で大きく変わることになった。
思い出すのはいつか見た報告書。人の兵器化の可能性を示唆した記録から始まった計画は実行された。されてしまった。
「兵器じゃないのかよ。じゃあさっさと次行こうぜ。あんま時間ねぇだろ?」
ユーズは僕を急かす。僕らのやるべきことはただ1つ、あの時計を破壊すること。そのために強力な兵器を探さなければならない。ユーズの言う通り、残された時間はそう長くない。
しかし、僕は次の候補地へ行くべきか迷っていた。このまま各地を巡っても、時計を破壊できる兵器を発見できるか分からない。
目の前の装置を使えば目的は達せられる。ただそれは、かつて軽蔑した行為をなぞることになる。
「...俺は何をすればいい」
ユーズは真剣に、多少の飽きれを含め僕を見つめる。妙なところで鋭いやつだ。
「ユーズの力は想像に由来している。記憶が変化すれば想像も応じて変化する。この装置は人の記憶を育て、上書きすることができる。つまり――」
「俺にその装置を使え」
ユーズは僕の言葉を遮るように言葉を放った。
「ロジアに言われたからじゃない。俺がそう望んだんだ」
自ら望んで装置を使う。そう宣言しただけ。結果がどうであれ、僕らにはそれで十分だった。
「最善を尽くす。そのために少しでも情報を集める。上の書庫を探すのを手伝ってくれ」
――針はFを指していた
***
――時は進み、針はVを指す
最後まで使われていたのか、装置は使える状態で残っていた。設定を変更し、可能な限り最適な環境を整えた。
「ユーズ、準備は良いか」
「いつでもいいぜ。俺に任しとけ」
「それじゃ行ってこい。早めに戻ってこられるよう祈ってるよ」